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鳥獣戯画を読む


著者:伊藤大輔/著
価格:4,500円+税
刊行日:2021/02/05

出版社:名古屋大学出版会
ISBN:978-4-8158-1012-2
Cコード:3071
[単行本](絵画・彫刻)

謎の絵巻「鳥獣戯画」。中世日本の芸能、王権、美意識にもとづく精緻な分析や、動物と人間の関係に関する考察により、全四巻を読み解く。マンガ起源論も検証。



内容紹介

謎の絵巻とも言われる国宝「鳥獣戯画」。なぜ動物が擬人化されているのか。その流動する画面はどのように連環しているのか――。中世日本の芸能、王権、美意識にもとづく精緻な分析と、動物と人間のシームレスな関係についての考察により、全四巻を読み解く。マンガ・アニメ起源論も検証。

まえがき

「鳥獣戯画」は謎の絵巻と言われている。誰が、いつ、どこで、何のために作ったのか分からない。また、何を描いているのかも分からない。一番有名な甲巻では、一見、動物たちが心明るく遊びを楽しんでいるように見えるが、しかし、猿との争いの結果、蛙が昏倒していたりする。模本にまで目をやれば、最後には蛇が出現して、楽しいはずの世界は破綻に追い込まれてしまっている。遊びの楽しさがないとは言わないが、蛙の昏倒はもとより、相撲の取り組みで蛙が兎の耳にかみついていたりするのを見ると、自然ならではの殺伐とした暴力性の香りもそこはかとなく漂っているようである。

さらに甲巻だけでなく、乙巻・丙巻・丁巻のそれぞれが何を語っているのかも不明であり、全四巻が連作として相互に連携し合って一つの体系を構築しているのかも分からない。

要するに、制作事情など作品を外から支えるコンテクストについても、またテクスト内部の読み取りに関しても、確かなことは分からないのである。

従って、「鳥獣戯画」を理解するためには、関連がありそうな文献史料を掘り下げて外側のコンテクストを実証的に確定するか、目の前に残された絵画テクストを丁寧に読み解いて作品の志向するところを内側から明らかにするか、いずれにせよまずは一つの方向から地道に探究を進める以外、手立てがないのである。

タイトルを見れば分かるように、本書では後者の方法を採る。しかし、だからといって簡単に問題が解決するわけではない。「鳥獣戯画」は四巻を通して詞書が無く、制作者の側から読み取り方が指示されることはない。また、……

[「はじめに」冒頭より]

もくじ

はじめに

第1章 「鳥獣戯画」甲巻の復原

第2章 「鳥獣戯画」甲巻研究史の再検討
1 「鳥獣戯画」という謎の本体
2 研究動向の分析
(1)仏教的主題説
(2)年中行事主題説
(3)機能論的観点
3 研究史的反省

第3章 流動するテクストとしての「鳥獣戯画」甲巻
1 連歌との類縁性
2 連歌の式目
3 賦物について

第4章 「鳥獣戯画」の成立と連歌史
1 短連歌
2 鎖連歌
3 長連歌

第5章 有心無心連歌の隆盛と「鳥獣戯画」甲巻
1 有心無心連歌
2 賦物としての遊芸
3 有心無心連歌と雅俗の両義性
4 画風と主題における雅俗の両義性

第6章 「鳥獣戯画」甲巻と王権
1 王権の両義性
2 後鳥羽院の芸能と「鳥獣戯画」甲巻
3 実制作年代と成立の場の検討

第7章 「鳥獣戯画」甲巻の美意識
1 風流の精神
2 平安末期の2つの美意識
3 「鳥獣戯画」甲巻と過差禁制
4 物合の場で培われる美意識
5 物合の場を超えて広がる美意識

第8章 「鳥獣戯画」甲巻の歴史的文脈
1 中心と周縁の観点
2 文化的価値体系の非対称性と院政的価値の台頭
3 連歌テクストとして読み解く試み

第9章 「鳥獣戯画」乙巻の考察
――甲巻との関係を中心に
1 研究史
2 甲巻と乙巻の連携
3 乙巻の読解

第10章 「鳥獣戯画」丙巻の考察
1 先行研究の検討
2 丙巻・人物戯画の造形的特色
3 丙巻・動物戯画の造形的特色
4 丙巻と嗚呼絵
5 丙巻・人物戯画と動物戯画の関係

第11章 「鳥獣戯画」丁巻の考察
1 丁巻の場面配列と戯画表現の特徴
2 似絵風官人付加の可能性
3 付加の時期
4 筆線形式の効果
5 文人画的価値観との類縁性
6 似絵と文人画的価値観

第12章 「鳥獣戯画」とマンガ・アニメ
1 絵巻物起源説――「鳥獣戯画」を中心に
2 絵巻物起源説批判
3 キャラクター形成の相違
4 ポストモダン的な性質の共通性
5 「鳥獣戯画」の受容とポストモダン
6 超歴史的なつながり

終 章 「鳥獣戯画」4つの巻
――その相互関係に注目して

補 論 動物と人間のシームレスな関係
――思想史的前提について
1 西洋における動物と人間の哲学
2 日本における動物観
3 人文学における位置づけ


あとがき
図版一覧
索引

伊藤 大輔

1968年、横浜市に生まれる。1991年、東京大学文学部卒業。1996年、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学。東京大学助手、岡山大学助教授などを経て、現在、名古屋大学大学院人文学研究科教授、博士(文学)。著書『肖像画の時代――中世形成期における絵画の思想的深層』(名古屋大学出版会、2011年)、『天皇の美術史2 治天のまなざし、王朝美の再構築――鎌倉・南北朝時代』(共著、吉川弘文館、2017年)他